ここ数ヶ月の間、世間の注目を浴びていた経済ニュースに「大塚家具の経営権争い」がありました。実の父と娘が、上場企業の経営権を巡って委任状の争奪戦を行うという非常に珍しいこの事案は、経済界だけでなくお茶の間でも話題となっていました。結果として3月の同社の株主総会で、娘である現社長の久美子氏が父である元社長の勝久氏に勝利し、今後の経営を担っていくことで一段落したところです。
株主総会に至るまでの一連の出来事の詳細は置いておくとして、個人的には1月に大塚家具の社外役員から当時社長であった勝久氏に提出された「要望書」の内容に目を奪われました。当時、大塚家具には3人の社外取締役、3人の社外監査役、合わせて6人の社外役員がいたのですが、報道によると6人の社外役員から提出された「要望書」において、勝久氏に対し以下のようなことが要求されていたとのことです。
①現体制による経営方針の速やかな策定・取締役会付議
②コンプライアンス体制の強化(適切な人事を含む)
③IR体制の強化(適切な開示・株主に対する適切な対応)
④予算・事業計画の適時の策定・取締役会付議
⑤経営判断の合理性の確保・取締役会における適切な説明(不動産取引を含む)
⑥取締役会における健全な議論を行えるようにしていただきたい
どれも当然実施されているべき、ごく基本的な話ばかりなのですが、私としては既視感がある課題の内容でもありました。それは、上場準備中の企業が、上場に向けて解決を迫られている課題(特に上場準備着手段階で明らかになる最初の課題)とそっくりだったからです。日常的に上場準備企業の支援をしている私の立場からすると、ある意味、いつもどこかで目にしている課題であったりするのですが、これが上場企業、それも上場企業としてそれなりの歴史のある企業の課題であるということに大変驚きました。
顧客を会員制とするか否か、価格を高級路線とするか否か、どのような接客スタイルとするかなど、企業が採用する経営戦略・マーケティング戦略についての正解は一つではありませんし、経営者が良いと考える戦略を自由に採用できる領域だと思います。
しかしガバナンスに関しては、上場企業となることを選択した以上、たとえ経営者が誰であっても、ガバナンスを軽視した経営は許容されるものではありません。昨今、企業のガバナンスに対する注目が増している中で、今回、久美子氏が株主からの信任を得た一因には、久美子氏が同社のガバナンス改革を強く主張していた点にもあったように思います。
上場を目指す未上場企業も、上場準備の段階でガバナンスを強化し、上述したような課題を解決し、上場審査をクリアしていくことになります。
ただし、上場審査の一時点をクリアすればそれで終わりになるのではなく、株主や社外役員等の多様な関係者からの信任を継続的に得ていくためには、上場後もガバナンスの手綱は決して緩めることができないものである、ということがよく分かるニュースだったように思います。
(関口)