宇宙、素材、ヘルスケアなど、先端的な領域において新技術を活用して新たな市場の開拓を目指す研究開発型企業(ディープテック企業)の中には、巨額な開発資金が必要なため、製商品化・サービス化に至っていない段階でも、大規模な資金調達を行うために上場を計画する場合があります。
しかしこのような場合、新たな市場をこれから開拓しようとしており、かつ技術開発及びビジネスモデルの確立が途上であることから、事業計画の合理性の評価の前提となる事業環境やビジネスモデルの内容、事業計画を遂行するために必要な事業基盤の整備見込みの確認手段が限られるなど、事業計画の合理性の評価が相対的に困難であることが予想されます。
そこで東京証券取引所は、以下のような方法でディープテック企業の審査を行うことを想定しています。
①上場前の投資家評価などを前提に事業計画の合理性を確認する。 ・ 既存株主である機関投資家に対してビジネスモデルや事業環境の評価などをヒアリングする。 ・ 主幹事証券会社を通じて、上場承認までに行われるインフォメーション・ミーティングなどにおける機関投資家の評価等を確認する。 (注)評価の活用にあたっては、機関投資家の申請会社の属する事業分野に対する目利き能力(投資実績など)や申請会社に対する出資額及び比率、上場後における申請会社株式の保有方針なども考慮する。 ②必要に応じて、技術開発等の水準・見通しについて、関係する事業分野の専門家・有識者の見解を確認する。 ③必要に応じて、顧客需要やコストの評価について、取引先や潜在顧客の評価を確認する。 ④必要に応じて、規制動向・法的基盤等の今後の見通しについて、当局の見解などを確認する。 ⑤Ⅰの部及び「事業計画及び成長可能性に関する事項」などの開示資料において、今後確立を目指すビジネスモデルや事業展開の見通し及びリスク情報等の重要な投資判断材料が適切かつ十分に開示されているか確認する。
(出典:新規上場ガイドブック(グロース市場編)) |
(注)上記は、上場までに機関投資家からの大規模な資金調達により相応の企業規模となっている会社がグロース市場へ上場することを前提としています。
なお、東京証券取引所は「相応の企業規模」として、「上場前から 100億円程度の資金調達実績がある、上場時の時価総額が1,000億円程度の水準に達する場合」を例示しています。
(重要な投資判断材料の開示のポイント)
(1)「事業計画及び成長可能性に関する事項」における開示
①ビジネスモデル・競争力の源泉・事業計画
・ 将来的にどのようなビジネスモデル・競争優位性の確立を目指しているのか、また、その実現のために現在行っている研究開発の内容など投資活動の詳細
・ 上場後も投資が先行することを踏まえ、研究開発を含む今後の投資計画(先行投資を行う期間や投資の規模感、事業進捗に応じた投資方針の変更や投資継続の判断に係る考え方等)や想定する投資効果(前提条件とともに可能な限り具体的な時期・数値)
・ 上場後の継続的な更新を想定し、フェーズごとに測定可能な目標を設定するなど、具体的なマイルストーンを示しながら記載する
②市場規模
・ ターゲットと想定している市場について具体的に示したうえで、その規模に関する将来予測を示す
③リスク情報
・ 事業化に必要な技術を確立できないリスクや市場が確立されないリスクなど、アーリーステージの企業特有のリスク項目について、顕在化する可能性の程度や時期、顕在化した場合の成長の実現や事業計画の遂行に与える影響の内容、当該リスクへの対応策等を、企業実態に即して記載する
(2)その他
開示内容を検討するにあたっては、上場前のインフォメーション・ミーティングなどの機会を活用し、投資者が企業価値を適切に評価するために必要な内容となっているか検証する