最近、上場会社の会計不正が生じておりますが、本来、財務報告に係る内部統制の評価(JSOX)において、会計不正をある程度防止できると思われているにもかかわらず会計不正が実際に生じてしまうことについて考えてみたいと思います。
まず、内部統制の限界として挙げられるものの中には、以下の2つがあります。
① 経営者不正
経営者自身による不正、または経営者が不当な目的のために内部統制を無視、無効ならしめることによって不正が行われることがあります。経営者が不正を容認するような言動を行っていたとしたら、いかに業務プロセスが整備されていたとしても不正が起こる可能性は高いこととなります。
②複数人による共謀
内部統制は、一人が不正を働こうとしても別の人がそれをチェックして抑止するといった牽制機能を基本としていますので、複数人による共謀、または組織ぐるみの不正には無力となってしまいます。
おそらく多くの会計不正に関しては、経営者が主導して多くの社員が共謀した組織的な不正のパターンが多いのではないでしょうか。この場合には、まさに内部統制の限界として挙げられているとおり、内部統制は無力となってしまいがちです。
一方、これらの内部統制の限界を補完するものとして、全社的な内部統制における6つの構成要素の一つに『統制環境』があり、この『統制環境』が全社的な内部統制の6つの構成要素のうちで最も重要であると言われております。
それは、『統制環境』が組織の気風を決定し、組織を構成する人々に対する意識の影響を与えるからで、内部統制全体の土台を構成するものなので、まず『統制環境』が十分合理的な水準でなければ、他の構成要素がいかにしっかりしていても内部統制は十分に機能しないと言われています。
『統制環境』は、誠実性と倫理観、経営者の意向及び姿勢、といった抽象的な内容ではありますが、この『統制環境』が正しく機能していないとその他の内部統制をいくら構築しても無力となってしまう可能性が高いと思われます。
実際のJSOXの評価において、業務プロセスの評価に相当な時間を割き、『統制環境』を含む全社的な内部統制の評価にはあまり時間を多くとっていないように思われます。
いくら業務プロセスを整備しても、肝心の『統制環境』に不備があれば不正が起こり得るということになりますので、『統制環境』の整備及び評価により注力する必要がありましょう。場合によっては、経営者の誠実性と倫理観、姿勢について、正していただくことを強く進めるべきでしょう。経営者自身が、信頼性のある財務報告の重視、コンプライアンスの重視を説きお手本を示すことが重要と思われます。
内部統制報告書は、経営者が作成して提出するものとなっておりますので、財務報告に係る内部統制が有効であると記載するには経営者自身が内部統制に対する責任をより強く感じる必要があるでしょう。
(黒川)