2015年6月に上場会社に対するコーポレートガバナンス・コードが制定されたのは記憶に新しいところですが、今度は監査法人に対するガバナンス・コードを制定するという話が出てきました。現段階では昨年の12月に「監査法人のガバナンス・コード(案)」が策定され1月末までパブリックコメントを募集している状況となっています。
そもそもの議論の出発点は、㈱東芝事案で明らかとなった問題点は単なる会計士個人の力量や審査態勢、品質管理態勢の問題だけでなく、監査法人のマネジメントの問題と捉えるべきではないかとの認識にあるようです。
気になる中身ですが、「監査法人のガバナンス・コード(案)」は5つの原則と22の指針から成っており、コーポレートガバナンス・コードと同様の構成となっています。規定内容としては
・監査法人トップによるリーダーシップの発揮
・実効的なマネジメント機関の設置
・独立した監督・評価機関の設置
・内部及び外部からの通報体制の整備
・「透明性報告書」の開示
等が記載されており、コーポレートガバナンス・コードと同様の内容が盛り込まれています。監査法人は公認会計士法に基づき設立され、会社法に基づき設立される株式会社と制度上異なりますが、監査法人についても大規模上場企業の経営形態に近づけていこうという方向性が見てとれます。
ガバナンス・コードの制定により実際の監査実務にはどのような影響があるのでしょうか。
ガバナンス・コードでは、監査品質充実の観点から、監査法人としての組織的判断が求められていることから、会計処理や監査契約の受注判断において、個々の監査チームの判断よりも監査法人の品質管理部門の判断が重視される傾向が強まることが考えられます。
現状のIPOの実務においては、新規上場企業の不祥事の増加を受け、監査法人のガバナンス・コード制定の動きとは関係無く、監査法人の判断がより厳しいものとなっている傾向があります。前期まで認められていた会計処理や開示方法が今季になってから急に認められなくなったという話や、今季から監査契約を締結できないと言われるケースが増加しているように感じます。これは会計処理や受注審査の判断に、監査法人の品質管理部門の意見が強く反映されている結果ではないでしょうか。
では、直前期になって監査法人の見解が変わるという事態を回避するにはどうすれば良いでしょうか。これはやはり普段からの綿密なコミュニケーションしか無いと思います。現在準備を進めている会社様におかれましては、重要な会計処理の論点については会社としての疑問点を整理し、納得のいくまで監査法人に確認するぐらいの慎重さで臨んで頂きたいと考えています。
(古川)