東芝が、2度に渡る四半期報告書の提出期限延長の末、4月11日に第3四半期報告書を提出しました。但し第3四半期報告書に添付されている四半期レビュー報告書の結論は、通常添付される「適正意見(※)」ではなく「意見不表明」であり、大きなニュースとなっています。
監査基準上では、「監査人は、重要な監査手続を実施できなかったことにより、財務諸表全体に対する意見表明のための基礎を得ることができなかったときには意見を表明してはならない。」とされていますが、四半期レビュー報告書上で意見不表明の理由として以下の事項が記載されています。
・あらた監査法人は、一部経営者による不適切なプレッシャーの有無及び会計への影響等に係る調査の評価を継続中であること。
・継続中の評価には、当四半期に計上した635,763百万円の工事損失引当金について、当該損失を認識すべき時期がいつであったかを判断するための調査に対する当監査法人の評価も含まれていること
・その他にも当監査法人の評価が終了していない調査事項があり、これらの影響についても、確定できていないこと。
四半期レビュー報告書に記載されている意見不表明の理由からは、今回の不表明の最大の理由は、のれんの減損の計上時期が確定できないことであるとともに、その他にも監査意見を表明できないほどの調査未了事項があることが伺え、その他の理由についても気になるところです。意見不表明になるほどの調査未了事項が複数生じるようなことは極めてまれなケースと言えるでしょう。
一方、今回のあらた監査法人の意見不表明を受け、金融庁の公認会計士・監査審査会が、あらた監査法人の監査体制の妥当性を調査するとの報道がなされています。
そもそも監査法人としては、東芝ほどの大企業に意見不表明の監査報告書を提出することは、相当のリスクを伴い、監査法人としても苦渋の決断をしいられたことが想像できます。意見不表明の監査報告書を提出したことにより、当局の調査が入るということなれば、期限内に適正意見を表明しなければならないとう無言のプレッシャーとなり、監査実務への影響が懸念されます。
東芝の前任監査人である新日本監査法人は、「東芝のガバナンスへの過信が生じ、東芝側の説明や提出資料に対して、批判的な観点からの検証が十分に実施できなかった。」等を理由として、懲戒処分を受けています。後任の監査人としては、相当に批判的な観点からの検証を実施すべきという判断になると思いますが、今回は過度に批判的すぎるという懸念があるということなのでしょうか。この辺りの調査理由がどうもよくわかりません。いずれにしろ2017年3月期末決算における東芝及びあらた監査法人の対応が気になるところです。
いわずもがなですが、IPOにおいて意見不表明の監査報告書が提出された場合、上場審査をとおることはありません。
(※)四半期レビューのため正確には「無限定の結論」になりますが、ここでは話を解りやすくするため「無限定適正意見」としています。
(古川)