少し前の日経新聞になりますが、米国のユニコーン企業の一つであるビジネス対話アプリの米スラック・テクノロジーズは2019年6月にニューヨーク証券取引所に上場しましたが、新株発行による資金調達及び売出をしない「ダイレクトリスティング(直接上場)」を選び上場を果たしたという記事が載っていました。
日本では、あまり例はありませんが、「ダイレクトリスティング(直接上場)」とは、IPO時の公募・売出を行わずに上場を達成することを意味しており、既に未上場の段階で流動性等の形式基準を満たしていれば、IPO時の公募・売出をしなくても上場することができることとなります。なお、日本の東証マザーズ市場の上場基準では、IPO時に500単位以上の公募をすることが定められています。
この「ダイレクトリスティング」に関しては、昨年4月にニューヨーク証券取引所に上場した音楽配信のスポティファイ・テクノロジーも同様に「ダイレクトリスティング」により上場を果たしており、それに続く上場となったようです。
また、民泊仲介の米エアビーアンドビーも2020年に新株を発行しない「ダイレクトリスティング」により上場を目指すと報じられているようです。
通常、上場時には新株発行を実施して公募増資による資金調達を実施できることがIPOの重要な目的の一つとして認識されており、特にベンチャー企業では市場より成長資金として多額の資金調達を実現するためにIPOを目指すというベンチャー企業が多いかと思われます。
実際に、米国のユニコーンと呼ばれる企業では、未上場の段階でもVC等より多額の資金調達を実現しているため、特に上場時に資金調達を行う必要性が感じられないと思える状況になっているのでしょう。また、ダイレクトリスティングのメリットとして、IPO時に公募増資等を実施しないことで上場費用は通常の上場と比べて1/3程度に抑えられるようです。また、投資家からの訴訟リスクも抑えられることもメリットの一つに挙げられるでしょう。
会社としては、未上場の段階で充分な資金調達ができたのであれば、特に上場することで上場会社としてのリスクを負う必要はないと判断する会社があるかもしれません。しかし、一方で株主であるVC等の投資換金のために上場をしなければならないことが考えられます。その場合、既に資金調達が十分であれば、ダイレクトリスティングを選択してそのメリットを享受しつつも、VC等のニーズに応えるという戦略が考えられます。
但し、上場の目的が会社本来の成長性を目指すものではなく、VC等の既存株主の換金目的での上場ということでしたら、このような「ダイレクトリスティング」が常態化するようなことはないかと思われます。
(黒川)