「監査難民」という言葉が最初に生まれたのは、2007年にカネボウ事件をきっかけにみすず監査法人が解散したのちのことだと思います。みすず監査法人が解散しその当時、同法人に監査を依頼していた企業は監査法人の変更を余儀なくされ、リスクが高い会社は他の監査法人に監査を引き受けてもらえないという事象が発生し、これがいわゆる「監査難民」と呼ばれるようになりました。また2007年9月に講談社から「監査難民」という本が出版され監査難民という言葉が業界では一般的に口にされるようになりました。
その後はリーマンショックを発端とした景気低迷や会計士試験の大量合格等もあり、監査法人側のリソースに余裕ができるようになり「監査難民」という言葉もなんとなく忘れられていたような気がします。
ところが近年「監査難民」が形を変えてやってきました。今回の監査難民は主にIPO準備会社を中心に発生しています。監査基準の厳格化、当局の検査やネットワークファームからのレビューの強化等から監査手続の業務量が増大したこと、監査法人から一般事業会社へ人材の流出していること等により既上場会社の監査だけでも監査法人のリソースが不足する状態となっています。
特にIPO準備会社の傾向として、会社側に監査を受ける体制が整っていない、監査報酬が上場会社と比較して安い、ビジネスリスクや不正リスクが高く監査リスクが高い、等の要因があり、ここ2~3年は受託が敬遠される傾向にあります。
最近の事例として、私の知人が経営している会社で遡及監査がネックとなりなかなか監査法人が見つからないケースがありました。その会社の事業はネット系のビジネスであり、在庫なし、固定資産はほぼPCのみといった会社なので「遡及監査も簡単に引き受けてくれるのではないか」と思っていましたが考えが甘かったようです。現状では大手・準大手監査法人では直前前期の期首以前に監査契約を結ぶことが通常であり、遡及監査が可能と思われる会社であっても受託にはかなりハードルが高いようです。
今後も監査法人における働き方改革の推進やコロナ禍におけるリモートワークの推進等、監査法人のリソース不足となる要因はむしろ増加しているような感じを受けます。
遡及監査以外の要因としても、監査法人による内部統制の評価の早期化等もあり、監査法人選びは直前前々期(N―3)の早い段階から検討しておくことが賢明であると思われます。
(古川)