昔の日本では、あれこれ口に出したりせず、黙ってなすべきことを実行することを指す「不言実行」が美徳とされてきました。
現在では、発言したことに対して責任をもって実践する意味である「有言実行」の方が実際に日常においてよく使われますし、実践されているかと思われます。特に、指導する立場の方は、「有言実行」を貫いておかないと、周りも従わなくなってしまうかと思われますが、最近、「有言実行」とは反対の「有言不実行」と思われる例が目についてきております。
まず、日本医師会の会長が、コロナ禍で東京都内にまん延防止等重点措置が適用されている最中、記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐべく徹底した感染対策を呼びかけてきたにもかかわらず、100人規模の政治資金パーティーに参加していたことが報道されております。また、会長は自らが理事長を務める北海道にある病院が、不十分な感染対策の結果、コロナ感染者を9人発生して、北海道からクラスターに認定されたとも報道されております。
まさに、発言内容と実際の行為は異なっているという「有言不実行」に該当する例であると思われます。
次の例は、上場会社に対して、アクティビストからの株主提案が否決されたのですが、コーポレート・ガバナンスを考えるとアクティビストの主張が正当と思われる例です。
日経新聞によると、東証1部に上場している平和不動産㈱は、香港のアクティビストであるリム・アドバイザーズから株主提案を受けておりましたが、今年の6月下旬に開催された定時株主総会にて株主提案を否決されたとのことです。
株主提案の内容は、日本取引所グループ(JPX)出身者を幹部に受け入れる「天下り」人事の慣行是正、不動産分野の実務経験のある取締役の選任などとなっております。平和不動産の歴代社長は旧東証出身者で占められ、6月の株主総会で承認された現取締役9人のうち、社長を含む3人が東証OBで、新任の監査役も東証出身であると日経新聞で報道されております。
アクティビストの株主提案の内容は、特定の取引先から複数の役員を受け入れている状況が、東証との関係に影響を与えており、コーポレート・ガバナンス上支障があるという内容ですが、外形的には経営判断が歪むおそれがあると見做されてもおかしくない状況であり、また不動産事業の知見のない取締役が適切な経営ができるかを鑑みると、アクティビストの株主提案は大変納得のいく内容であると思われます。
コーポレート・ガバナンスの指導的立場にある東証出身者が、自ら退任した後にコーポレート・ガバナンスに疑義のある状況に関わっているのは、「有言不実行」と思われても仕方ないと思われます。
(黒川)