現在、コロナに関してはワクチンの浸透もあり第5波が治まり緊急事態宣言が終了した状況ではありますが、今から約1,300年前に、現在のコロナ感染症のようにパンデミックで日本中が甚大な被害を受けた時代がありましたので、当時の状況を概観してみたいと思います。
今から約1,300年前の奈良時代、聖武天皇の治世の時代に、海外から九州に持ち込まれた「天然痘」が日本全国に波及し、全人口の約3割が死に至る未曽有の厄災となりました。
このときは、朝廷の中心人物であった藤原不比等の4人の息子も相次いで天然痘で死亡しました。
聖武天皇は、感染の拡大を食い止めようと、仏教を厚く信仰して、数百人規模の僧が宮中で読経し、全国に国分寺、国分尼寺を設立するよう国分寺建立の詔を発し、さらには東大寺にあの有名な大仏を建立するなどパンデミックを鎮める対策として様々な手を打ちましたが、その手法は主に仏教の力に頼るということでした。
当時は、当然のことながら医学的な有効な手段がなく今のようにワクチンはなく、仏教等の宗教の力にすがるしかなかったのです。
現代は、コロナ対策として科学的に裏付けられたワクチンも開発されているので、古代と比較して宗教に頼らなくてもよく、ワクチンをより普及させることが重要な国家目標であり、より普及率を高めることが国全体として求められています。
さて、仏教に関しては、奈良時代以前の仏教は豪族が私的に信仰していましたが、聖武天皇によってパンデミック対策として第一に国家の安泰を祈願するという鎮護国家思想のもと、国家仏教へと変化して、国が寺を建立し、天皇が国家の鎮護を仏教の信仰によって願うようになっていきました。また、聖武天皇は、日本の仏教強化策の一つとして、高僧である「鑑真」を唐より招聘しました。鑑真は、失明の苦難を乗り越えて渡来し、日本の僧侶が正式な僧侶となるよう授戒に必要な戒律を伝えています。なお、元号も天下泰平になることを願って「天平」としております。
このように、仏教が国家仏教として広まるきっかけとなったのが、聖武天皇が行った天然痘の流行を鎮める対策としての仏教強化策です。
現在、コロナを鎮めることが日本のみならず、世界の喫緊の課題となっておりますが、政府はコロナを鎮めるために大変な予算と労力を費やしています。
奈良時代の天然痘を鎮める手段として、国家が仏教を厚く信仰して、国家プロジェクトとして多大な費用と労力を費やして各地に国分寺を建立し、奈良に大仏を建立して世界遺産として現在でも歴史的な価値を存続させておりますが、現代のコロナを鎮めるための対策も遺産として将来に向けて歴史的な価値を見出せるようになってもらいたいものです。
(黒川)