監査難民解消に向けた取り組み
2021年8月4日付の日本経済新聞の記事によると、主要な中小監査法人の2021年5月時点でのIPO監査受託件数は前年同期と比較し9割程度増加したとのことです。中小法人の監査品質が認知されて、IPOを目指す企業が大手、準大手志向からシフトしているようです。
監査難民については数年前から問題となっていますが、金融庁は、2020年3月に「IPOに係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会報告書」を取り纏めています。その中で監査難民問題については、各関係主体の間で以下のような問題点があるのではないかと指摘されています。
■監査法人
・IPO企業の経営者による不適切取引や大企業の不正会計事案などを受けた監査手続の厳格化により、監査工数が増加している。
・働き方改革、公認会計士のスタートアップ企業への転籍などにより、監査に必要な人員や監査時間の確保が難しくなっている。
■証券会社
・IPOを目指す企業の監査人として大手監査法人を推す傾向がある。
■上場準備会社
・IPOを目指す企業における内部管理体制の整備のタイミングについて、IPOを目指す企業と監査法人との間に認識のズレがある。
同報告書で指摘されている問題点は、現在各主体で様々な取り組みがなされています。
まず証券会社においては、以前のような中小監査法人への抵抗感というのは大分減少しており、中小監査法人によるIPO実績も増加してきています。
監査法人側においても、日本公認会計士協会が、IPO監査の新たな担い手となる「中小監査事務所のリスト」の公表を行い、当該事務所に対する専門的知見やノウハウの共有を推進しています。最近では大手監査法人から独立したIPOに知見がある会計士が監査法人を立ち上げ、IPO監査を積極的に受嘱するという取組みも見られます。
発行体においても、以前と比較し組織内会計士の活用が進み、内部統制構築に対する意識が高まり、監査契約締結に対する意識が高まっていると感じます。
以上のように、監査難民解消に向けては各関係者で様々な取組がなされており、良い方向に進んでいるのではないかと感じています。IPO準備会社においては、自社の企業規模やビジネスモデル、海外展開の有無、監査法人側のIPO監査に向けた取組を考慮し、「中小監査事務所のリスト」等も活用し適切な監査法人選択をしていただきたいと考えております。
(古川)