さて、毎年秋のこの時期になるとノーベル賞受賞者の発表があり新聞を賑わせますが、ノーベル賞の中でもノーベル経済学賞は経済学の分野で大きな功績を上げた人物に贈られる賞となります。しかしながら、ノーベル経済学賞は、他のノーベル賞とは異なり、正式にはノーベル賞ではないとのことです。というのは、正式なノーベル賞はノーベルの遺言とその遺産を基に贈られるものがノーベル賞である一方、ノーベル経済学賞はスウェーデン国立銀行がノーベル財団に働きかけて創設したもので、賞金もスウェーデン国立銀行が提供していることで、正式なノーベル賞とは異なっており、名称も「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞」ということです。
但し、選考の手続等については他のノーベル賞と同様ですので、広い意味でのノーベル賞とみなされております。
このノーベル経済学賞については、実際に金融関係の業務に就いている人にとってはノーベル賞の中でも比較的業務上で身近な内容であると思われます。
なお、今年2022年のノーベル経済学賞には、アメリカの中央銀行にあたるFRBの議長を務めたベン・バーナンキ氏など3人が選ばれております。金融危機が起きる仕組みを解明し、その対処法を示したことが評価されたとのことです。
さて、ノーベル経済学賞を過去に遡ってみますと、経済学者のマイロン・ショールズ氏とロバート・マートン氏の二人が金融派生商品の価格決定手法を確立したことで、1997年にノーベル経済学賞を受賞しております。オプション評価モデルであるブラック-ショールズモデルの開発と理論的証明をしたことが評価されました。
ところが、受賞した翌年、オプション評価技法を利用したヘッジファンドであるLTCMが巨額の損失を出して破綻してしまったことで批判を浴び悪名高くなってしまいましたが、実際に、ブラック-ショールズモデルはデリバティブ市場以外でも新株予約権の評価などに幅広く使われており、ストックオプション会計基準上でもストックオプションの費用計上等に利用しているケースが多く、経理担当者等にとっても比較的身近な技法であると思われます。数式は難解な偏微分方程式ではありますが、特に必要なパラメーターとして以下の5つを特定すればオプション評価ができるという点では実務上は非常に利便性が高いものであり、ノーベル賞受賞により評価され一般に広まったのは大変意義のあるものと思われます。
・原資産の値段
・行使価格
・残存期間
・金利
・予想変動率
今後、ブラック-ショールズモデルを超えるような実務上で利用価値の高い理論が開発され、ノーベル経済学賞を受賞されることを更に期待したいと思います。
(黒川)