金融庁は、昨年12月に「有価証券報告書の定時株主総会前の開示に向けた環境整備に関する連絡協議会」を設置し、昨年12月及び今年3月にそれぞれ協議会を開催していました。その上で、今年の3月28日に加藤金融担当大臣名により「株主総会前の適切な情報提供について」というタイトルで、上場会社に対し要請を行いました。要請の趣旨としては、有価証券報告書(以下、「有報」と記載します)には役員報酬や政策保有株式等のガバナンス情報など、投資家とって有用な情報が豊富に含まれており、株主総会の前に確認できるようできる限り配慮すべきで、本来は株主総会の3週間以上前に開示するのが望ましいが、有報を株主総会前の望ましい時期に開示する取組を進めるための第一歩として、今年から、まずは有報を株主総会の前日ないし数日前に提出することを検討してほしい、という段階的な対応を上場会社に促しました。
この大臣要請を受けて、3月決算の上場会社がどのように有報の定時株主総会前開示を行ったのか、その実績状況が金融庁のHP上で7月に早速公表されています(2025年3月期に係る総会前開示の状況)。それによりますと、有報の定時株主総会前の開示を行った3月決算の上場会社は全体の57.7%(1,310社)となり、前期(1.8%(42社))に比して著しく増加したとのことでありました。市場別で見ますと、プライム上場企業では約7割が、スタンダード上場企業で5割弱、グロース上場企業でも4割が総会前開示を行った模様です。
<3月決算会社の2025年における総会前開示の状況>
市場別 |
総会前開示 |
総会同日・総会後 |
その他 |
合計 |
プライム |
776社【69.6%】 |
336社【30.1%】 |
3社 |
1,115社【100.0%】 |
スタンダード |
435社【47.2%】 |
482社【52.3%】 |
5社 |
922社【100.0%】 |
グロース |
73社【41.0%】 |
105社【59.0%】 |
-社 |
178社【100.0%】 |
その他の市場 |
26社【48.1%】 |
28社【51.9%】 |
-社 |
54社【100.0%】 |
計 |
1,310社【57.7%】 |
951社【41.9%】 |
8社 |
2,269社【100.0%】 |
※出典:「総会前開示の状況(PDF令和7年3月期)」(金融庁HP掲載資料)より抜粋
※「その他」8社→2025年6月末時点で未定・未公表の会社
上記の会社の中には、直近で新規上場を果たした会社も含まれていますが、それらの会社の対応状況についても気になったため、独自に集計をしてみました。対象として、2024年に東証へ新規上場した3月決算会社の24社、2025年の年初から直近4月までに東証へ新規上場した3月決算会社の7社について見てみましたが、その対応状況は以下の通りでした。
<2024年に東証へ新規上場した3月決算会社の2025年における総会前開示の状況>
市場別 |
総会前開示 |
総会同日・総会後 |
合計 |
プライム |
2社【100.0%】 |
-社【 -%】 |
2社【100.0%】 |
スタンダード |
-社【 -%】 |
5社【100.0%】 |
5社【100.0%】 |
グロース |
9社【 53.0%】 |
8社【 47.0%】 |
17社【100.0%】 |
計 |
11社【 45.8%】 |
13社【 54.2%】 |
24社【100.0%】 |
<2025年年初~4月に東証へ新規上場した3月決算会社の総会前開示の状況(市場別)>
市場別 |
総会前開示 |
総会同日・総会後 |
合計 |
プライム |
1社【100.0%】 |
-社【 -%】 |
1社【100.0%】 |
スタンダード |
2社【100.0%】 |
-社【 -%】 |
2社【100.0%】 |
グロース |
2社【 50.0%】 |
2社【 50.0%】 |
4社【100.0%】 |
計 |
5社【 71.4%】 |
2社【 41.9%】 |
7社【100.0%】 |
2024年に東証へ新規上場した3月決算会社については、24社のうち11社(45.8%)が総会前開示を行っており、その割合は全上場会社の平均を下回る結果となっています。一方で、2025年の年初以降から4月にかけて東証へ新規上場した3月決算会社については、7社のうち5社(71.4%)が総会前開示を行っていて、その割合は全上場会社の平均をも上回る結果となっています。2025年に新規上場した会社が直近の東証審査期間中に何らか要請等を受けていた可能性もあるのでは、と思ったりするのは私だけでしょうか。
加藤金融担当大臣の要請の中では、今後、金融庁として、2025年3月期以降の有報の提出状況について実態把握を行い、有報レビューの重点テーマ審査において株主総会前の提出を行わなかった場合の今後の予定等について調査を行うなどの対応を検討していく旨も表明されています。これにより、現行開示制度下においても、株主総会より前に有報が開示される慣行の醸成がますます進んでいくことが推測されます。
また、コーポレートガバナンス・コードに有報開示後の株主総会開催の重要性を明記することも検討されている他、金融庁が最終的に目指している株主総会の3週間以上前の開示を容易に実現するには、株主総会開催日の後倒しや、株主総会の招集通知と有報とのいわゆる一体開示等、既存の規律や開示制度の見直しも避けられないことから、これらの実務動向については、上場準備会社としても注視していく必要があると考えられます。
(畠中)