ある会社に、一定以上の議決権を有する株主が存在する場合、その株主は会社の経営方針等に大きな影響力を持つことになります。
したがって投資家にとっては、会社の情報だけでなく、その会社の大株主の情報も投資判断のための重要な情報となります。
そのため、金融商品取引法や取引所の規則では、上場会社等の株主のうち、一定以上の議決権を有する大株主に関する情報の開示についてルールを定めています。
(ただし、金融商品取引法と取引所の規則では、「親会社等」の範囲が異なりますので注意が必要です。)
本項では上場会社の「親会社等」に関する開示制度の概要について説明します。
1. 親会社等状況報告書(金融商品取引法)
上場会社の「親会社等」は、その事業年度ごとに、自社の株主の状況その他公益又は投資者保護のために必要な事項を記載した「親会社等状況報告書」を内閣総理大臣に提出しなければなりません。(金融商品取引法 第24条の7 第1項)
本規定における「親会社等」とは以下のものをいいます。
親会社等 ・金融商品取引法第24条の7 第1項 ・金融商品取引法施行令第4条の4 第1項第2項 |
・上場会社等の総株主等の議決権の過半数を自己又は他人(仮設人を含む)の名義をもって所有する会社 ・ある会社と、その会社が総株主等の議決権の過半数を自己又は他人の名義をもつて所有する法人等が合わせて、上場会社等の総株主等の議決権の過半数を自己又は他人の名義をもつて所有する場合の当該会社 *いずれの場合も有価証券報告書提出会社を除く |
上記のように金融商品取引法の規定に基づき「親会社等状況報告書」の提出義務を負う「親会社等」の判定は、客観性を重視した持株基準によって行います。(後述する取引所規則では「親会社等」を財務諸表等規則(支配力基準)により定義しています)
◆「親会社等」の事例(金融商品取引法第24条の7 第1項)
以下の事例では、A社及び【例3】のa社に親会社等状況報告書の提出義務があります。
2. 非上場の親会社等の決算情報の開示(東京証券取引所 有価証券上場規程)
上場会社が「親会社等」を有する場合において、当該親会社等の決算の内容が定まったときは、上場会社は、直ちにその内容を開示しなければなりません。(有価証券上場規程 第411条 第2項、特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例 第123条 第2項)
(注)以下の場合には、開示の必要を要しない。(有価証券上場規程第411条第3項、特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例第123条第3項)
・「親会社等」の株券等が国内の金融商品取引所に上場している場合
・「親会社等」の株券等が外国金融商品取引所等で、上場もしくは継続的に取引されている場合
・「親会社等」と上場会社との事業上の関係が希薄であり、上場会社が「親会社等」の決算の内容を把握することが困難であると取引所が認めた場合
・その他取引所が適当と認めた場合
本規定における「親会社等」とは以下のものをいいます。
親会社等 ・有価証券上場規程第2条(3) ・有価証券上場規程第411条第2項 ・特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例第123条第2項 |
・親会社、財務諸表等規則第8条第17項第4号に規定するその他の関係会社又はその親会社 *親会社等が会社である場合に限る *親会社等が複数ある場合にあっては、上場会社に与える影響が最も大きいと認められる会社をいい、その影響が同等であると認められる場合にあっては、いずれか一つの会社をいう |
上記のように、取引所の規則における「親会社等」の定義は、財務諸表等規則(支配力基準)によっています。(金融商品取引法の規定に基づき「親会社等状況報告書」の提出義務を負う「親会社等」は持株基準により判定します)
また、「親会社等」が複数ある場合であっても、本規則の対象となる「親会社等」は1社のみです。
上場会社により開示された「非上場の親会社等の決算情報」は、適時開示情報閲覧サービスを用いて閲覧することができます。
◆「親会社等」の事例(有価証券上場規程第411条第2項他)
以下の事例では、X社は、親会社等としてA社の決算情報を開示する義務があります。*
親会社等が複数ある場合における上場会社に与える影響度については、議決権の保有割合の他、人事・取引等の日常的な意思決定の状況等、各社の実情に照らして総合的に判断する必要あります。
(参考)親会社等に関する開示制度
項目 |
親会社等状況報告書 |
非上場の親会社等の決算情報開示 (東京証券取引所) |
根拠となる規則 |
金融商品取引法第24条の7 第1項 |
有価証券上場規程第411条第2項 特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例第123条第2項 |
対象となる会社 |
上場会社等 |
上場会社 |
親会社等の範囲 |
・上場会社等の総株主等の議決権の過半数を自己又は他人(仮設人を含む)の名義をもって所有する会社 ・会社と当該会社が総株主等の議決権の過半数を自己又は他人の名義をもつて所有する法人等が合わせて、上場会社等の総株主等の議決権の過半数を自己又は他人の名義をもつて所有する場合の当該会社 *有価証券報告書提出会社を除く |
・親会社、財務諸表等規則第8条第17項第4号に規定するその他の関係会社又はその親会社 *親会社等が会社である場合に限る *親会社等が複数ある場合にあっては、上場会社に与える影響が最も大きいと認められる会社をいい、その影響が同等であると認められる場合にあっては、いずれか一つの会社をいう ただし、「親会社等」が上場会社である等、一定の場合には、決算情報の開示は不要。(注) |
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金融商品取引法第24条の7 第1項 金融商品取引法施行令第4条の4 第1項、第2項 |
有価証券上場規程第2条(3) 有価証券上場規程第411条第2項 |
開示義務者 |
「親会社等」が親会社等状況報告書を提出 |
上場会社が「親会社等」の決算情報を開示
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開示時期 |
原則として「親会社等」の事業年度ごと |
親会社等の以下のいずれかの決算の内容が定まったとき ・事業年度もしくは中間会計期間(当該親会社等が四半期財務諸表提出会社である場合は四半期累計期間) ・連結会計年度もしくは中間連結会計期間(当該親会社等が四半期連結財務諸表提出会社である場合は四半期連結累計期間) |
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原則として「親会社等」の事業年度経過後3ヶ月以内 |
上記の決算の内容が定まったときは直ちに |
開示内容 |
1. 親会社等の株式等の状況 ・所有者別状況、大株主の状況 2. 役員の状況 ・役職氏名、生年月日、略歴、任期、所有株式数 3. 会社法の規定に基づく計算書類等 ・貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表、事業報告、附属明細書 |
a. 親会社等の概要 ・名称、所在地、代表者の役職・氏名、事業内容、資本金 b. 当該親会社等の財務諸表 ・貸借対照表及び損益計算書を添付(キャッシュ・フロー計算書を作成している場合はキャッシュ・フロー計算書を添付) c. 当該親会社等の株式の所有者別状況、大株主の状況、役員の状況 d. その他投資者が会社情報を適切に理解・判断するために必要な事項 |
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企業内容等の開示に関する内閣府令第19条の5 第2項(内国親会社等の場合:第五号の四様式) |
非上場の親会社等の決算情報 記載要領より |
(注)以下の場合には、開示の必要を要しない。(有価証券上場規程第411条第3項、特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例第123条第3項)
・「親会社等」の株券等が国内の金融商品取引所に上場している場合
・「親会社等」の株券等が外国金融商品取引所等で、上場もしくは継続的に取引されている場合
・「親会社等」と上場会社との事業上の関係が希薄であり、上場会社が「親会社等」の決算の内容を把握することが困難であると取引所が認めた場合
・その他取引所が適当と認めた場合
3. 上場申請書類としての「非上場の親会社等に関する決算情報」
非上場の親会社等を有する上場申請会社は、上場申請時に申請書類の1つとして
「非上場の親会社等に関する決算情報」を提出します。
市場 |
提出書類 |
提出の条件等 |
規則 |
スタンダード プライム グロース |
非上場の親会社等に関する決算情報 |
・新規上場申請者が親会社等を有している場合 *親会社等が会社である場合に限る *親会社等が複数ある場合にあっては、新規上場申請者に与える影響が最も大きいと認められる会社をいい、その影響が同等であると認められる場合にあっては、いずれか一つの会社をいう *上場後最初に到来する事業年度の末日において親会社等を有しないこととなる見込みがある場合を除く。
ただし、「親会社等」が上場会社である等、一定の場合には、決算情報の提出は不要。(注)
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有価証券上場規程施行規則 第204条第1項第26号 第218条第1項 第231条第1項第1号 |
(注)以下の場合には、提出を要しない。
・「親会社等」の株券等が国内の金融商品取引所に上場している場合
・「親会社等」の株券等が外国金融商品取引所等で、上場もしくは継続的に取引されている場合であり、かつ、当該親会社等又は当該外国金融商品取引所等が所在する国における企業内容の開示の状況が著しく投資者保護に欠けると認められない場合
関連項目:支配株主等、親会社、子会社、関連会社、その他の関係会社、記載すべき子会社、