日々、東証のTDnetで上場企業の適時開示情報を眺めていると、ここ最近は「株主からの提案を受けた」といった内容の開示が増えているように感じます。実際、22年3月期決算企業の株主総会において、株主から株主提案を受けた上場企業数は過去最高の数になったそうです。
その中で個人的に大きな衝撃を受けたのは、フューチャーベンチャーキャピタル(以下、FVC)の株主総会の事例です。FVCは東証スタンダード市場に上場している独立系のベンチャーキャピタルですが、FVCは22年4月に個人株主の金氏から株主提案を受けました。提案内容は取締役全員の交代(取締役全員の退陣と、金氏を含む新しい取締役の選任)で、金氏が考える経営戦略及び株価の上昇を目指す方針も提示されました。そして、22年6月の株主総会で会社側の提案が全て否決され、金氏側の提案が全て可決された結果、経営陣が全員入れ替わり、金氏が新たに代表取締役に就任することになったのです。
極度の業績不振状態にある、大きな不祥事が起きたなど誰の目にも明らかな問題がある時には経営陣が大きく入れ替わることはあり得ますが、FVCについてはそこまでの状況にあったわけではありませんでした。以前は赤字が続いていたものの21年3月期からは黒字化し、22年3月期は過去最高の当期純利益を計上していました。経営戦略や理念も存在していましたが、株価が株主の期待ほど上昇していなかったことなどもあり、金氏側の主張する経営戦略や株価上昇への期待の方が多くの株主に支持されたということでしょう。純粋な経営権争いの結果、現任の経営陣が急遽全員退任・交代となるのは珍しい事例だと思います。
また、会社に提案を行うアクティビストというと普通はファンドなどをイメージしますが、今回の金氏は個人株主(それも2.5%だけを保有する少数株主)だったという点も驚きです。普通に考えると2.5%の少数株主の提案が可決されるとは考えづらいため、旧経営陣も4月の株主提案受領時には数ヶ月後に自分たち全員が退任になっているとは想像しなかったのではないでしょうか。機関投資家だけではなく個人投資家もそれぞれの考えを表明し、結果として少数株主の意見が経営に反映されることはコーポレートガバナンスの観点では良いことなのですが、経営陣としては緊張感が増すことになります。
IPOを目指す会社においても、上場のメリット・デメリットの確認・検討は最初に行うことです。その際、上場のデメリットの一つとして「買収などにより会社の経営権を失う可能性がある」ことはどの資料にも必ず記載されている事項だと思います。ただ確かにその可能性はあるものの、実際にそれが起きることを現実的に意識していることは少ないのではないでしょうか(恥ずかしながら、私はリアリティーのある話として意識したことはあまり無かったです)。
しかし、今回のような事例を目の当たりにすると、現実的なデメリット(リスク)として考えておく必要があります。IPOを実現することは、多くの会社においてデメリット以上に享受できるメリットが大きい意味があることだと考えていますが、自らの意思で厳しい環境に行くことになることを認識し、デメリットに対する強い覚悟を持つことも必要になると改めて感じました。
(関口)