ここ最近、企業のアルバイト店員が勤務先で悪ふざけした写真をインターネット上に投稿し、それらが拡散した結果、大騒動に至った事件が続出しました。問題となった店舗の運営企業は謝罪対応に追われ、中には問題が発生した店舗の閉鎖を余儀なくされ事業運営に影響が生じた事例もありました。
こういった不適切な写真の撮影行為自体は昔からある程度存在していたのでしょうが、「Twitter」や「Facebook」といったSNSサービスの急速な浸透に伴い、少し前であれば外部には漏れなかった情報が爆発的に広まってしまう世の中になったことから生じたものだと思われます。企業としては、急速な情報通信技術の進展に伴う「新たなリスク要因」への備えが必要になったということでしょう。
IPOの世界においても、上場準備会社が上場準備の過程で社内のリスク管理体制を整備・構築していくことは1つの重要なテーマになります。上場準備を開始する段階では業務拡大が優先されていることなどから組織的なリスク管理が行われていることは少ないのですが、パブリック・カンパニーになるにあたっては「攻め」だけでなく「守り」の体制整備も必須となるからです。
この点、先程のSNSの話のように近年は外部環境の変化のスピードが激しいことから、自社にとっての①リスク要因の洗い出しと②リスクが発生したときの対応について、社内で定期的に検討しておくことが非常に重要になります。また、リスク発生時には急な対応を迫られることも多いため、常日頃からそれらを社内の関係者で共有しておく仕組みも重要です(例えばリスク管理委員会などを新設し、定期的に開催するケースもあります)。
また、上場までに作成が必要となる「目論見書、届出書、Ⅰの部」といったIPO関連の書類では、自社の「リスク情報」を一般投資家に対して文書で開示することが必要になるため、その記載内容については熟慮が求められます。それ以外でも、中期経営計画策定時のSWOT分析(自社にとっての脅威や弱みを洗い出す作業)、J-SOX対応におけるリスクとコントロールの整備、内部監査の実施による業務リスクの抽出、リスク管理に関連した規程の整備・運用などなど、上場準備作業においては至るところに「リスクへの対応」という要素が出てきます。ある意味、上場準備作業はリスク管理体制の構築作業であるとも言えます。
実際の上場準備作業では上記のように様々な項目の整備や運用が要求されるため、その対応は非常に大変なものになりますが、これを自社のリスク管理体制構築の良い機会であると前向きに捉えていただき、「攻め」と「守り」のバランスが取れた優良企業が数多く市場に出て行かれることを期待したいと思います。
(関口)