今年の夏にテレビで放映されたドラマ「半沢直樹」は、皆さんもご存知と思いますが、その原作者の池井戸潤氏の著作であり直木賞を受賞した小説『下町ロケット』を「半沢直樹」の流れで読んでみました。
池井戸潤氏の著作は銀行関連の内容が多いのですが、この小説はそのような内容とは一味違っていて、中小企業の悲哀と夢が描かれていて、最近にない感動を覚えまた考えさせられるものがありました。
あらすじは、大田区の町工場の技術力のある中小企業を描いたものですが、得意先より下請けいじめに遇ったり、銀行から貸し渋りに遇ったりして資金繰り難になってしまい、ご多分に洩れず中小企業の悲哀を味わいつつも日々奮闘している状況を描いています。
ある日、競合の上場会社から特許権侵害で訴えられ、容赦無い法廷戦略を駆使されて社会的信用を失い会社存亡に危機に立たされてしまいます。そのような状況の中、その中小企業が取得した特許技術が日本を代表する大企業が開発を進めているロケットの打ち上げに必要不可欠の最先端特許であることが判明し、大企業は何とかその特許を取得するべく20億円の対価で譲渡を申し入れます。しかし、昔ロケットの研究者であった中小企業の経営者はそれを断りその代わりに自らその特許を使用した部品を供給することを大企業に申し入れます。
特許技術(知財)を巡る駆け引きの中で、中小企業の経営者のプライドと夢の追求、一方で会社の資金繰り難、社員と家族の思いの中で決断しなければならない経営者の葛藤を見事に描いている作品です。
『下町ロケット』は、日常ついつい忘れかけてしまう何かを思い出させてくれ、経営者の夢、会社の夢とは何かを再考するきっかけになったと思います。
当然、小説の話でありフィクションではありますが、一般的にはどうしても資金繰り等を優先して判断してしまいかねないことを考えると、目先の資金繰りよりもっと大切なものが会社を経営する上では時には必要であることに改めて気付かされます。
一時的に資金繰りが良くなっても、会社の根本的な士気、気概がなければ、すぐにまた資金繰りに行き詰まってしまい収益を安定化できずに長期的には立ち行かなくなってしまいかねません。
会社全体を一つの方向に向けるため、経営者が夢を持ち、その夢を経営者一人の夢にだけしておくのではなく社内に共有して社員一人、一人の夢が会社全体の夢となり、その夢の追求と中小企業のプライドを会社全体がひとつとなって共有できれば素晴らしいと思います。
そのような夢の追求と中小企業のプライドが、会社の本当の強みになるのでしょう。
(黒川)