少し前ですが、公表している学歴等に関する経歴詐称が発覚したことで、テレビの人気コメンテーターが出演番組を急遽降板したというニュースが話題になりました。また、その後しばらくは世間的に「経歴詐称」という言葉に注目が集まり、芸能人・著名人などに関する経歴詐称疑惑の報道・騒動が起きています。
「経歴詐称」という言葉を聞いて私の頭に浮かんだのは、上場準備会社における人材採用の現場です。私は上場準備支援の一環として、クライアントが上場準備担当者を採用する際の採用活動支援をすることがあり、求職者の履歴書や職務経歴書等の書類チェック・面接への同席などをする機会も多いのですが、似たような場面に出くわします。
求職者の履歴書や職務経歴書に記載されている学歴や職歴が完全に虚偽のものであれば、それは明らかに求職者側の問題であり、経歴詐称と言い切れるのでしょうが、そこまではっきりしたケースは多くはありません。
実際に良く遭遇するのは、「●●の業務の経験がある」「○○ができる」という書類上の記載が、面接時に質問で深く聞いてみたところ、実際にはその業務の経験が僅かしかなかったり、1人ではその業務を完結することができないレベルであったりして、求職者の知識や経験が採用側の期待しているレベルまで到達していない、という事例です。
こちらのケースは求職者が意図的に詐称を行っているというよりは、求職者と採用側で「●●の業務の経験がある」「○○ができる」といった言葉が意味する範囲やレベル感が異なっていることが原因であることが多いため、経歴詐称とは言えないかもしれません。しかし、このケースにおいてお互いの認識が異なるまま求職者の入社が決まり、いざ求職者が入社した後になって会社が期待している成果が出せないと、採用側としては「経歴詐称ではないか?」と感じてしまうこともあるでしょう。
このミスマッチが起きると採用側の企業も求職者も両方不幸になってしまいますが、ミスマッチを防ぐためには、求職者の知識や能力、経験などについて、採用側でしっかり見極めを行う力が必要になります。その支援のため私は面接への同席などをしているわけですが、世の中の多くの上場準備会社においては、上場準備の初期にはそもそも専門的な知識や経験を持っている役職員がいないため(だからこそ上場準備のための担当者の採用を行うわけですが)、判断がつかないケースも多いのではないかと想像します。
ミスマッチを完全に防止するソリューションはなかなかありませんが、上場準備担当者を採用しようとしている企業の方には、まずはこのような実態があるということを認識いただき、採用フローの中で出来る限り慎重に検討することを意識するだけでも、ミスマッチの可能性を少しは減らせるのではないかと思います。
(関口)