東芝が、当初2月14日に予定していた第3四半期の四半期報告書の提出を、当日になって延期すると発表しました。理由としては、グループ会社であるウェスチングハウス社が他社を買収した際の手続きに関して、内部統制の不備を示唆する内部通報があり、内部通報により指摘されている事実関係などの調査や監査法人のレビュー手続きを実施するのに約1ヶ月の期間を要するため、とのことです。
決算発表の延期自体は良い事ではありません。ただ、(事実は分かりませんが)仮に内部通報の内容が東芝の決算数値に影響を及ぼしている場合には、内部通報が行われず後になってから決算数値が誤っていることが判明し、遡って過去の決算訂正を行うよりは、事前に判明しただけ良かったとも言えます。それ以外の点で会社のガバナンスが効いているかどうかは別として、内部通報の観点ではガバナンスが効いていたと言えます。
上場準備企業においても、上場準備期間において、内部統制システム整備の一環として内部通報制度の導入を行うことが一般的です。ただ、会社としては他の様々な課題解決にも時間がかかるため、実際に導入する時期は比較的遅め(上場準備期間の後半や終盤)になっているケースが多いように感じます。そうすると、社内に新たな制度が導入されたことやその具体的な内容についてどうしても役職員へ周知しきれないため、上場前に内部通報制度を完全に機能させることはなかなか難しくなってきます。
私も取引所で上場審査をしていた時に実際に経験したことがありますが、 上場審査の過程で取引所や主幹事証券会社に対して上場準備企業に関する内部告発が行われ(この会社には●●の問題がある、といった内容の投書など)、それにより上場審査が一旦止まることや上場が果たせなくなることが一定数あります。
こちらは内部通報ではなく外部機関への告発ですが、告発内容が事実か否か以前に、外部への通報があったこと自体が社内の内部通報制度が機能していない証明になってしまい、審査の視点では印象が悪くなってしまいます。
こういった社内関係者からいきなり外部へ告発される事態を防止するためにも、まず先に企業グループ内部で通報ができる(してもらう)仕組みが必要になります。そのためには、上場準備期間の早い段階から内部通報制度を導入し、社内への周知徹底を繰り返し行い、一定の運用期間を確保して実効性を高めていくことが望ましいと思います。
なお、実際に制度を運用している中で、「内部通報があった」と聞くと会社としてはネガティブに捉えてしまいがちですが、どのような会社でも経営を行っている中で何かしらの問題は生じるものです。内部通報があったということは、放っておくと大きな問題になる可能性がある不正や不祥事の種を、社内で早期に把握して対応することができたと前向きに捉えることが大切だと思います。
(関口)