米国の会社であるテックポイント・インクが2017年9月29日にマザーズ市場へ上場することが発表されました。正確には「上場する有価証券は、同社普通株式を信託財産とする外国株信託受益証券(JDR))」とのことです。
同社は外国会社であるため、提出する有価証券届出書(「届出書」)の様式は内国会社とは異なるのですが、内国会社の届出書と共通の記載項目であっても、書きぶりに差があると感じた部分がありました。
以下、「事業等のリスク」に関して気づいたことをいくつか挙げてみます。
①届出書の「表紙」に、届出書の中の「将来の見通しに関する記述が含まれている」パートとして「事業等のリスク」を含む数項目が注記されています。
さらに、将来の見通しに関する表現として、「可能性がある」、「予定である」「〜かもしれない」等が例示されています。
日本語の感覚では少し大袈裟な気もしますが、このような表現を使用している記述には、リスク及び不確実性が伴うことについて注意を促しています。
②「事業等のリスク」の各項目の表題として、内容の要約文が記載されています。
たとえば同社の「事業等のリスク」の最初の項目の表題は
「当社は業歴が短いため、現在の事業及び将来の見通しを評価することは困難です。」
と太字・斜体で記載されており、続いて詳細な説明が記載されています。
日本の会社が同内容を記載する場合、表題は「社歴が浅いことについて」のようにするのが一般的です。「事業等のリスク」は本文が長くなる傾向にあるので、表題だけで内容がわかると、投資家には便利ではないかと思います。
③各項目の説明でかなり踏み込んだ表現を用いているように感じます。
たとえば、同社の「事業等のリスク」にはSOX法に関する記載が数ヶ所かあり、以下のように説明されています。
・成長に有効に対処できない可能性があり、成長のための運営・管理上の対応(SOX法対応を含む)に多大な費用を負担する必要があるかもしれない。
・米国SOX法の要件を含む上場企業として求められる財務インフラや内部統制等を強化できない場合、虚偽報告を防ぐことができないかもしれない。
・米国SOX法を遵守するため、多大な費用を要し、経営陣の労力が割かれることになると予期している。
・同社が米国JOBS法の「新興成長企業」である間は、米国SOX法における監査証明要件の免除、その他様々な報告要件の免除を利用する予定であるが、これを理由に、投資家が同社のJDRの魅力が少ないと感じるかどうかについては予測できない。
日本の会社が同様の趣旨で記載する場合は「人材確保や管理体制整備が予定どおりに行われない場合には、財政状態及び経営成績に重大な影響を及ぼす可能性がある」のような表現にするのが一般的と思われます。
外国会社の届出書に触れる機会は多くないので、これらの差が日米の実務慣行の差によるのか、それとも同社固有の事情によるものなのかはわかりません。
ただ、全体の印象としてテックポイントの記載は「強調したい部分を明確にし、具体的に説明する」ことに重点がおかれているのに対し、日本の会社は「一般化した事実を淡々と説明する」スタイルをとっているのではないかと思います。
これらの差はあくまで私の主観によるものですが、書きぶりに差があるとしても投資家保護という目的は同じです。
テックポイントの届出書を参考に、今後の実務に活かせる点があるか考えてみようと思っています。
(原田)