吉本興業に所属する複数のお笑い芸人が特殊詐欺グループのパーティーに出席していたことに端を発する、いわゆる「闇営業問題」が少し前まで世間を騒がせていました。連日多数の報道が行われていたため私も報道の内容は概ね見ていましたし、芸人の謝罪会見やそれを受けて行われた吉本興業の社長会見も見ました(5時間超にわたる社長会見は一部だけですが)。
報道や会見の中で色々な話が出てきましたが、「反社会的勢力との関係・金銭の授受」「経営者によるパワハラ」「会社と所属芸人との間の契約書の不備」などの論点は上場準備企業における上場審査上の課題としても良く出てくるガバナンスの話であり、その類似性を感じながら興味深く見ていました。
もともと芸能の世界はコンプライアンスやガバナンスとは比較的遠い世界にあったと思います。報道や会見を見ていても関係者にその感覚があることを感じましたが、昨今ではそのような整理で済ますわけにはいかず、芸能界においてもコンプライアンス経営が求められる時代になってきているということだと思います。
騒動がこれだけ大きくなったのは、所属芸人が反社会的勢力から金銭を受け取っていたにもかかわらず、「金銭は一切受け取っていない」という重要な嘘を初期段階でついたことにあると思います。それによりそれ以降の芸人の説明の信頼性には常に疑念が生じることになりましたし、吉本興業側も一度「金銭は受け取っていない」と関係各所に説明して回った直後ですぐにそれを撤回できない状況から、その後の対応が難しくなり、事態がややこしくなっていったように思います。
上場準備の現場においても同じような現象はあります。主幹事証券や取引所に対して上場準備企業が重要な点について虚偽の説明を行い、それが後から嘘だとバレた場合、それ以降の上場準備企業の説明はたとえ事実であったとしてもなかなか信用してもらえなくなります。結果として、その上場準備企業の上場準備には大きな支障が出ることになります。
うまく言い逃れられればその場を切り抜けることができ、嘘をつきたくなってしまう気持ちは潜在的には誰にでもあるとは思いますが、嘘をつかないことはどんな世界においても重要なことだと改めて感じました。
(関口)