先日、アメリカの証券取引所のナスダックが、取締役会の多様性向上のため上場企業に対し女性や人種的マイノリティー・LGBTの取締役登用を義務付けるとの報道がありました。日本においても今年6月に東証が「コーポレートガバナンス・コード」を改訂し、そこではプライム市場の上場企業では独立社外取締役を3分の1以上選任する(必要な場合には過半数の選任の検討をする)ことが記載されるなど、世界的な流れとして上場企業には社外役員の増加や人材の多様性確保が求められています。
そのような中、今年6月に東芝が公表した第三者による調査報告書を読みました。東芝の株主側が選任した調査者によって調査・作成された報告書は121ページに及びます。
報告書では昨年の東芝の定時株主総会の開催にあたり、株主(いわゆるアクティビスト)の議決権行使をめぐって東 芝が経産省と連携し、総会前に株主に対し不当に圧力をかけたことなどが認定されています。そしてその結果、議決権を行使しなかった株主が存在しており、報告書の結論として「本調査者は、本定時株主総会が公正に運営されたものとはいえないと思料する」とされています。
コーポレートガバナンス・コードにおいて「上場会社は、株主の権利の重要性を踏まえ、その権利行使を事実上妨げることのないよう配慮すべきである。」と定められているように、株主総会における株主の議決権行使に会社側が圧力をかけることはコーポレートガバナンスの根幹を揺るがす話であり、なかなか衝撃的な内容です。
一方、当時の東芝の取締役会の構成を見てみると、取締役は合計12人で、うち10人が社外取締役となっており、社外取締役の比率は相当高い状況にありました。社外取締役には外国人の方や女性の方も含まれており、社外取締役の数としても多様性としてもかなり充実した状況にあったと言えます。
しかし、外形的にはコーポ―レートガバナンスが充実している東芝において、コーポレートガバナンスの根幹を揺るがす問題が起きたという事実は考えさせられる話です。
これは社外取締役の単純な人数や属性だけではなく、社外取締役一人一人の適性や、社外取締役が機能するための会社としての仕組み作りが重要であり、それらがない中で社外取締役の数の増加や属性の多様性を図っても上手く機能しないということだと思います。
社外取締役を増員することや人材の多様性を図るという現在の全体の方向性には異論はありませんが、形式的な充足を図るだけではなく、各社が自社のコーポレートガバナンスを強化するために実質的に機能する体制はどうあるべきかを考え、構築していくことが求められているのではないかと思います。
(関口)