東証の市場再編が行われ、4月からプライム、スタンダード、グロースという市場区分がスタートしました。今回は再編によって市場の名称が変わっただけでなく、「新規上場基準と上場維持(廃止)基準が原則、共通化される」という変更もありました。これまで上場審査基準と比較して上場廃止基準の方が甘く、新規上場基準を下回った状態になっても上場を続けていた上場企業がありましたが、今後は同じ基準での上場廃止の判断が行われることになります。
今回、長らく使われてきた「東証一部」という名称が消え、新しい市場名称になるという大きな変化であったにもかかわらず、「代り映えしない」という批判の声も多く聞かれます。これまで東証一部に上場していた企業の8割強、約1,800社がプライム市場へ移行したことから、現状ではそう言われてしまっても仕方ない状況であると感じます。それほど多くの企業がプライム市場へ移行することができたのは、現時点ではプライム市場の上場維持基準をクリアしていない企業であっても、「上場維持基準の適合に向けた計画」(以下、適合計画書)を作成し、上場維持基準をクリアできる将来の計画を開示すればプライム市場に移行することができる、という経過措置が取られたためです。
ここで上場維持基準を満たしていない企業が実際に開示した適合計画書を見てみると、今後3年前後での基準達成を計画している企業が多いものの、5年以上先の達成を計画している企業も一定数あり、中には今から10年後の基準達成を計画している企業もあります。
IPOの上場審査では、上場準備企業の「事業計画の合理性」が審査されます。事業計画はあまり先の期間になると不確実性が高くなるため、通常は会社が作成する3年間の中計期間を上限に審査が行われます。また、会社が事業計画で見込んでいる売上高や費用等の数字の策定根拠についても審査でかなり細かく確認されます。これらは上場を目指す企業にとって大きな論点になっており、この点をクリアすることに苦しんでいる上場準備会社が多くあります。
一方、今回上場企業が開示した適合計画書についてはたとえ10年先までの計画であっても(現状では)許容されていますし、適合計画書の記載内容の妥当性について誰かが審査を行っているという話も聞きません。今後は「新規上場基準と上場維持基準が同じになる」という考え方になったわけですが、IPO時の上場審査における事業計画の取り扱いと上場企業の適合計画書の取り扱いについて、両者の乖離が大き過ぎるように感じます。制度変更に伴う激変緩和措置が取られること自体は理解できますが、例えば適合計画書の期間は最長で3年までと規定する、明らかに合理性を欠く適合計画書の内容については取引所として許容しないなど、一定のルール化や確認が必要だと感じます。
東証ではこの4月に有識者による「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」を設置し、市場区分見直しの実効性向上に向けての検討を開始しています。この会議などで見直しの検討が進むことを期待したいと思います。
(関口)