4月の中盤になり、3月決算の上場企業は期末決算作業の真最中だと思います。今後、固まった決算数値をもとに6月に開催される株主総会の招集が行われることになりますが、今年からはその形が少し変わります。
会社法改正により、2023年3月以降に開催される株主総会から、上場企業には「株主総会資料の電子提供制度」が義務付けられることになりました。これまでは上場企業は全ての事項を記載した株主総会資料を印刷・製本し、「招集通知」として株主に郵送していましたが、今後はWebサイトのURLを記載した簡易な書面(「通知書面」)の郵送のみに変わります。そして、通知書面を受領した株主は書面に記載されたWebサイトへ自らアクセスし、Web上で詳細情報を確認することになります。これまで多くの会社の株式を保有している株主は大量の印刷物を受領していましたが、今年からはその量は大きく減少することになるでしょう。
IPOの世界にもDXの波は来ています。IPOする企業が上場時に募集・売出を行う際には、投資家に対し印刷・製本した目論見書を交付しています。この目論見書の交付を、書面ではなく全て電子により行う事例が出てきています。2022年9月にグロース市場に上場した株式会社プログリットはIPOにおける目論見書の完全電子化の第1号となりました。そしてそれ以降、2022年は年末までに他に5社の新規上場企業が目論見書の完全電子化を採用して上場しています。
インターネットを利用できず電子交付に対応できない投資家も一定数存在すると思われるため、IPO時の目論見書を完全電子化すると株価形成の点でのマイナス影響はあり得ます。また、目論見書はIPOの実現時に初めて作成されるもののため、発行体の上場準備関係者にとっては紙媒体で製本された目論見書は長い苦労の末の成果(記念品)になっているという側面もあると思います。
ただ、完全電子化により会社は印刷費用などのコスト削減ができますし、投資家にとっても迅速な情報提供が行われるなどのメリットがあります。また、目論見書は不足することがないように多めに印刷・製本することが通例で、最終的に過剰な印刷物が余ってしまうことも多いですが、完全電子化により廃棄物等の削減が可能となるため、SDGsの観点からも有用です。
デメリットもあるとは言え、今の世の中全体のDX化の流れからすると、IPO時の目論見書の完全電子化の事例は今後増加していくのではないでしょうか。
(関口)