前回のブログ記事で、アリババ社の会長、ジャック・マー氏の発言を取り上げましたが、マー氏が語った上場のデメリットに関する発言の中で、もう一つ気になった発言がありました。
「自社の中に、人の足を引っ張ることにしか興味がない弁護士のような取締役もいる」というものです。(表現はやや誇張されている部分もあると思いますが・・)
調べてみると、アリババ社が上場したニューヨーク証券取引所(NYSE) の上場規則では、NYSEに上場する米国企業は「独立社外取締役を過半数にしなければいけない」というルールがあるようです。いわゆる会社生え抜きの取締役よりも、会社から独立した社外取締役の数の方を多くしなければいけない制度は、ガバナンス面で日本よりも明らかに厳しいルールです。
現状の日本の上場企業が同じ状況下にあるわけではありませんが、日本においても東証から「コーポレートガバナンス・コード」が公表されており、2015年6月から適用が開始されています。これにより東証一部や東証二部といった本則市場の上場企業は、独立社外取締役2名以上を選任する(しない場合は、その理由を説明する)ことが求められることになりました。日本市場も欧米流のガバナンス強化を目指している方向にあることは間違いありません。
日本におけるガバナンス強化の方向性自体は正しく、重要なことだと感じます。しかし一方で、独立社外取締役の形式的な人数合わせに終始してはいけないとも思います。
独立社外役員の中でも、名前から分かるように「監査」の役割が期待される「社外監査役」はまだしも、「社外取締役」は社外役員であっても取締役会での決議に議決権を持つボードメンバーであり、経営者の一員です。そのため、「経営」の視点を持ち、事業活動を理解し、企業活動のリスクとリターンを見極めた上で、独立の視点から適切な発言ができる存在である必要があります。種々のリスクを把握した上で、必要なリスクであればそれを取りに行く判断も時として必要になります。そういった見極めが出来る人材でないと、常にブレーキをかけるのみの存在になってしまい、マー氏が嘆いたような事態が生じてしまうのかもしれません。
実際、私が関与するクライアントでも、自社の事業内容・自社の属する業界動向に精通し、かつガバナンス面にも造詣が深い方というのはなかなか見つからない、という悩みを持たれていることが多いです。
このような人材面の課題を急に解決する方策は無いのでしょうが、新たに始まったコーポレートガバナンス・コードに基づく企業運営がこれから長く継続されていく中で、事業とガバナンスの両面に精通した人材が徐々に育成され、市場に増加していくのだと思います。そしてそのような人材が増加することが、中長期的に日本の資本市場を強化させることにつながっていくのだと思います。
(関口)