監査契約締結以前の期間に遡って行う監査のことを「遡及監査」または「遡及的監査」と呼ぶことがあります。
上場準備会社は、Ⅰの部に記載する最近2年間の財務諸表等について、監査法人等による監査を受けなければなりません。どのタイミングで監査法人と監査契約を結べばよいか(結ばなければいけないか)については、これを明確にする法律・規則はないことから、例えば、何らかの理由で監査契約の締結が行われていなかった際に、初めて監査契約を締結する事業年度だけでなく、その前の事業年度分についても監査証明を出せるかどうかなどが実務面での論点となっています。
日本公認会計士協会は「新規上場のための事前準備ガイドブック」で、監査対象期間に入ってからの監査契約について「監査対象期間に入ってからでも、会計監査を受けられる可能性は十分にあるが、上場への不確実性は高まる」として、以下のように説明しています。
① 会計記録の整備や決算体制の整備等、監査受入体制が整っていない場合には、監査契約の締結ができない場合がある
② 「期首在庫残高」等、直前々期期首(監査対象期間初日)残高の中で、検証できない部分が生じてしまう場合、重要性の程度によっては、直前々期の監査意見が「限定付適正意見」または「意見不表明」となる可能性がある
③ 監査法人等の指導を受ける期間が短くなるため、内部管理体制の整備等の上場準備が間に合わず、上場時期を延期しなければならない可能性が高まる
(日本公認会計士協会は「新規上場のための事前準備ガイドブック」より)