【加藤】Ⅰの部とか目論見書とか届出書とか

 昨年の第1回緊急事態宣言の全面解除からちょうど1年が経過しました。現在は3回目の緊急事態宣言の最中です。日経新聞のホームページの新型コロナウイルス特集のページはこの1年で実に充実したコンテンツ群となり、現在は変異ウイルス感染チャートやワクチン接種状況のチャートも出来ています。ワクチン接種の累計回数については中国が5億回超、アメリカが2.8億回に対し日本はまだ1000万回に満ちません。累計感染者数が米国33百万人に対し日本は71万人ということなのである程度仕方がないのかも知れませんがもう少し日本政府には頑張ってもらいたいものです(因みに中国の累計感染者数は9万人とのことです...)。

 さて、そのような今日この頃ですが、今月14日金曜は短信提出の集中日でした。軒並み提出延期となっていた昨年に比べると今年の公表状況は平年並みの水準に戻ったようです。

 上場会社の皆様お疲れさまでした。次は有報ですね。

 IPO準備会社の3月決算の会社は現在も決算真っ只中という会社も多いかと思いますが来るべき上場に備えて短信のトライアルやⅠの部の仕上げの方、頑張ってください。

 ところで、IPO準備中の経営者の中にはⅠの部について、位置づけがよく分からないという方多いのではないでしょうか。

有価証券報告書は分かるんだけど、Ⅰの部は有報と何が違うの?ぱっと見は同じなんだけど。とか、似たような感じで目論見書とか有価証券届出書とかあるんだけど似てるような違うような、みたいな。

 今回は簡単にそのあたりのからくりをご説明したいと思います。

 Ⅰの部は正式名称は「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」といい、これは証券取引所が上場審査をするためにIPO準備会社に提出を求める資料で、上場申請時に監査報告書付で提出しないといけません。なお、Ⅰの部というからにはⅡの部というのも存在します。詳しくはこちらで内容をご確認ください。なお、マザーズを目指す会社はⅡの部の代わりに各種説明資料、ジャスダックを目指す会社はJQレポートが必要となります。

 さて、Ⅰの部に戻ります。

 Ⅰの部は上場審査で使われます。従って、証券取引所の審査の前に、主幹事証券の引受審査部門の審査にも提出しなければなりません。なので、Ⅰの部を最初に完成させる時期は主幹事審査入りの直前ということになります。具体的な時期は主幹事証券のコンサル部門である公開引受部門に確認しながら進めることとなります。

 では、Ⅰの部は有報とは何が違うのでしょうか?

 実はほとんど一緒です。違いはⅠの部は最後の「第四部 株式公開情報」というところで直前前期、直前期の2年分の株式の移動や増資・ストックオプションの状況を記載し最後に上場申請直前の株主名簿を掲載する点や前半部分の株式関係の記載の様式が違うくらいです。

 ただ、Ⅰの部は上場承認時には、別途冒頭に証券情報という章を追加して有価証券届出書として財務局(EDINET)に提出しないといけません。証券情報とは、IPO時のファイナンススキームを説明するもので、公募・売出し等の内容やスケジュール、調達した資金の使途等を記載します。有価証券届出書は上場後もファイナンスの都度提出しなければいけないもので「発行開示」と呼ばれたりもします。他方、有報は、同じく財務局(EDINET)に提出するのですが、こちらは定時総会の前後で上場会社は毎年必ず提出しないといけない資料で「継続開示」と呼ばれたりします。

 最後にⅠの部と目論見書の違いです。

 目論見書はⅠの部というよりは有価証券届出書とほぼ同じ内容です。つまりⅠの部に「証券情報」という章を加えたものとほぼ同じということになります。「ほぼ」というのは有価証券届出書には存在する「第三部 特別情報」という内容が目論見書には記載が省かれている点にあります。証券口座をお持ちの方は証券会社のHPからIPO銘柄の目論見書をダウンロードできるかと思いますが、目論見書の表紙の裏には必ず「2.この届出目論見書は、上記の有価証券届出書に記載されている内容のうち、「第三部 特別情報」を除いた内容と同一のものであります。」と表記されているかと思います。また、目論見書には冒頭にカラーページと呼ばれる7ページ分ほどの事業説明やグラフが掲載されています。

 このような差異がある理由はその利用目的にあります。Ⅰの部は審査用、有価証券届出書は財務局が投資家保護のためにファイナンスを実施する会社の情報を広く周知するため、目論見書はIPO会社の株式を販売する幹事証券会社が投資家への勧誘に利用するために使われます。

 つまり目論見書は国から登録を受けた証券会社等だけが勧誘の際に利用することを認められた書面であり、一般の個人や法人が目論見書を使ってIPO株を勧誘するとそれは法律違反となります。

 その上で、なぜ販売のプロである証券会社が利用する目論見書には「第三部 特別情報」が省略されるのかといいますと、それは少し歴史を紐解く必要があります。

 現在の有価証券届出書には基本的には直前前期、直前期の2期分の財務諸表と直近の四半期財務諸表が掲載されているのですが、昔はそれに加えて「第三部 特別情報」に直前前期よりも前3年分の財務諸表が掲載されていました。ただ、「第三部 特別情報」の3年分の財務諸表には監査証明がついていませんでした(直前前期、直前期の2期分の財務諸表と直近の四半期財務諸表には監査法人のお墨付きとして監査証明(四半期はレビュー証明)が付いています)。そのため、株式を売る立場の証券会社にしてみると監査証明のついていない期間の決算書を含めて勧誘行為を行うことはリスクのある行為となります。なので目論見書では「第三部 特別情報」の財務諸表を除くスタイルとなっていた訳です。

 ですが、そもそも上場準備中の会社に対し、直前前期よりも前3年分もの金融商品取引法ベースの決算書を有価証券届出書に掲載させること自体は、監査がないといっても相当な負担となっており、その負担が原因で将来性のある企業がなかなかIPOに辿り着かないという側面もあり、当時のアベノミクス政策の一つとしてこの3年分の決算書の開示は2014年に廃止となりました。

 ですので、今となっては目論見書で「第三部 特別情報」を省略する意味はあまりないのですが、歴史の名残りで現在でもそのような運用がなされているということになります。

 目論見書冒頭にカラーページがあるのはその方が証券マンが勧誘の際に便利だからといったところでしょうか。

 以上、長々と書いてしまいましたが、Ⅰの部・有価証券報告書・有価証券届出書・目論見書の違いはご理解いただけましたでしょうか。なかなかややこしいですよね。もご参考まで。

 なお、上記に書ききれませんでしたが、他にも

  • 開示場所の違い(Ⅰの部は取引所ホームページ、有価証券報告書・有価証券届出書はEDINET、目論見書は証券ホームページ)
  • 根拠法令の違い(Ⅰの部は取引所ルール、それ以外は金融商品取引法)
  • 監査対象期間の違い(有報は1期分、それ以外は2期分)
  • 比較情報の違い(有報は比較情報あり、それ以外はなし)
  • KAMの違い(有報は必須、それ以外は特定規模の会社以外は対象外)

等々あったりします。

 分からなくなったら主幹事証券の公開引受部門の方にアドバイスを求めてください。勿論弊社へのお問い合わせも大歓迎です。

  

加藤

2024IPO社数(予定を含む)=26*

2023IPO社数(通期)=96*

 

3月22日現在

市場別

2024

(含予定)

2023

(参考)

プライム

スタンダード

グロース

メイン-名

札幌(本則)

ネクスト-名

アンビシャス

0

3

23

0

0

1

0

2

23

66

5

1

1

0

 Qボード 0 1

合計

   27

99

 複数市場へ同時に上場する会社があるため、IPO社数と市場別内訳の合計は一致しない点にご注意ください。

 

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2023IPO社数(通期)=96*

2022IPO社数(通期)=91*

 

市場別

2023

2022

(参考)

プライム

スタンダード

グロース

メイン-名

札幌(本則)

ネクスト-名

アンビシャス

2

23

66

5

1

1

0

3※1

142

70※3

2

0

2

1

 Qボード 1 0

合計

   99

92

 複数市場へ同時に上場する会社があるため、IPO社数と市場別内訳の合計は一致しない点にご注意ください。

1:東証11社を含みます。

2:東証2部+JQ4社を含みます。

3:マザーズ10社を含みます。

2022IPO社数=91

2021年IPO社数=125社

 

市場別

2022

 

2021

(参考)

プライム

スタンダード

グロース

東証1

2

10

60

1

6

東証2

3

8

マザーズ

10

93

JASDAQ

メイン-名

1

2

16

名証2

0

3

ネクスト-名

セントレックス

2

0

1

Qボード

アンビシャス

0

3

合計

92

130

 複数市場へ同時に上場する会社があるため、IPO社数と市場別内訳の合計は一致しない点にご注意ください。