少し前になりますが、森友学園問題を機に、「忖度」(そんたく)という言葉がよくメディア等で使われました。一般的には「忖度」というのは、「他人の気持ちをおしはかること。推察」という説明がなされています。
つまり忖度は、「何某かの事物を元にして、他人の考えや気持ちを想像すること」という意味で使用されています。本来の意味からすれば、特に悪い意味はないようなのですが、森友学園問題のように政治の世界で使われる場合には、政治家の考えを想像してその考えに沿う行動を起こし便宜を図ることということになります。
本来の意味での「忖度」においては、他人の気持ちを推し量ることは大切なことであり、日本的なおもてなしも、相手を忖度することから始まることを考えれば、日本人にとっては良い意味のある言葉でもあると思われます。
ビジネスにおいても組織内で相手の気持ちを推し量って行動していくことは必要なスキルの一つでしょう。上司の気持ちを推し量って行動していく部下が評価されるのは当然のことと思われます。また、得意先の気持ちを推し量って行動していくことは営業にとって大切でしょう。
IPO準備段階においても、良い意味で「忖度する」ことは必要でしょう。主幹事証券会社は、取引所の意向を推し量ることで、上場準備会社に対して適切な指導を行えるようになります。
また、上場準備会社は、取引所及び主幹事証券会社の意向を推し量ることで効率的にIPO準備をすることが可能となります。IPO審査は環境変化に応じて、重点審査項目及び判断もその時々で変化する傾向がありますので、上場準備会社が取引所及び主幹事証券会社の意向を推し量ってIPO準備を推進していくことは必要不可欠な対応と思われます。
ただし、意向を推し量る場合に、誤って推し量ってしまうと後で手戻り等が生じてしまい、上場スケジュールに支障をきたすことにもなりかねません。適切に取引所及び主幹事証券会社の意向を推し量るには、ある程度の知識と経験を有する内外の人材が必要であると思われます。もし、そのような人材が社内に存在しない場合には、社外のコンサル等をうまく利用することも一つの方法と思われます。
(黒川)